切ない春の終にて、幸せ
穏やかな風が吹いている。さらさらと笹が揺れる。背筋を伝う汗が、綿のシャツに吸われて、風が通ると、すっと冷えて、心地が好い
車窓から涼しい風が流れてくる。助手席で他愛もない話しで笑うおばあちゃんの顔が、ミラーに映る。橋の手摺が鍵盤を踊る手みたいに優雅に滑っていく。
桜が咲いている。葉擦れの音に合わせて木漏れ日が揺れる。蜜蜂の低い羽音が耳許を掠めて、一瞬身が縮む。
風が、あの山の向こうから、ずっと渡ってくる。あの山にはおじいちゃんが眠る。おじいちゃん、今日はいい日だね。あたたかい春の陽だね。
昔よく遊んだ遊具で、桃、水、黄色の帽子がきゃっきゃとわらっている。先生もわらっている。ちいさい手が鐘を揺らすと、からんからん、金の軽やかな音は、風に乗って、遠くまで