遺言

ちらしのうら

夢の中で人を

夢の中で人を殺した。

すりガラス越しに夕陽の差し込む最上階の女子便所、一番奥の個室で男性を殺した

洋式便座に座って、目を見開いて事切れた男子学生の頭をひたすらナイフで刺していた

私は便座の前へ置いた三脚につけたカメラでそれをずっと録画していた

もう血飛沫も飛ばなくなって、穴だけが開く皮膚の肌色が無くなるまでずっとそうしてやろうと思っていて、心の中にはそれしかなくて、憎しみも怨みも何もなかった。飽きたらとっくに切れ味の落ちたナイフで切りつけた

それもとうに飽きふと録画を見返して、無心になった頭に流れ続けていた曲を口遊む

なにもかも気まぐれだった

目の前にいるこいつだって名前も知らない

用意していたわけじゃなくてたまたま全て揃っていて、たまたま、偶々連れ込んで、そうして、

すりガラスの戸を開けると、冬を迎えて更地になった田畑がずうっと先まで広がっていて、遠くの山が、陽をもう直ぐ隠すところで

ああ飽きたな。血の飛んだ個室は腥いにおいが満ちて、篭ったそれが窓から吹き込んだ冷たい夕風に流れていく。窓から、遠くを眺めていると全部嘘みたいに感じて、早く家に帰らないと。と思う。でも死体はそのままこちらを見て居て、夢じゃ無いことを知る。よく、わからなかった。動機も理由も。でも、もう何度も、こうして殺してきたように思う。これからどう処理すればいいかも、わかりすぎて慣れ過ぎて、緊張感がない。