遺言

ちらしのうら

たそがれ

私からあの子に行く時は境界が曖昧

でもあの子から私は境界がちゃんとある

健忘といういちばんかなしいさかいめ。

だけどあの子は、本当に幼くて無邪気で、

私が知らないことを沢山教えてくれる

私が怖くてまともに見られない傷に水が一切掛からないようラップをして浴びるシャワーすら、じいと裂け目を観察し、血が止まらなければじゃあじゃあとシャワーを直あてしてテープで止めようとする。

それで閉まらなければ四苦八苦した挙句諦めて寝てしまう。危機感などない。

不格好に包帯をまいて、そして朝見つけてなんとなくそれを思い出す

泣き喚いたのは私なのに、痛めつけるのは何も知らない無垢なこどもにやらせるなんて、私は酷い大人であると思う。

そうしてその幼子に教わるのだ

笑いたい時に笑って、泣きたい時には泣くという単純明快できれいな気持ちとそうあるべくある方法を、

私が醜くて愚かなことを、その子に教わるのだ

 

きみとふたり、いいえ、皆で、淡い夕焼けの残滓に溺れて、永遠に、境目がわからなくなるほどやわらかなぬるまゆに揺蕩っていたい

夢でも現でもないところ

朝でも夜でもないところ

僕でも私でもないところ