遺言

ちらしのうら

未練の一つも残さずに

妹が引っ越すので、その手伝いをしていた

何となく寂しい気持ちになるのは、なんでだろう。もうこの地には二度と来ないだろうし、大学にも行かない。この家にも。私が住んだ土地でもないし、家でもない、のに…

妹とは滅多なことがなければ喧嘩をしない。高校生迄、一緒に住んでいた時はしょっちゅう喧嘩をしてたし、言いたいことも素直に言い合っていた、と思う。それが。離れれば離れただけ、お互いになんとなく気を使って、どちらかが折れたり、飲み込んだり、濁したり、当たり障りない答えを返す。私は妹のことが好き。家族だから。大切だと思う。大切だから、言いたいことは言うべきだし、私も嫌なことは嫌だと言うべきなんだと思うし…、でもそれが出来なくなる。出来なくなっていく…そしていつかは他人に近くなって、「家族」というのは関係を表すだけの言葉になり、過去になる。楽しい過去だけが頭の中にあれば、それでいいのかもしれない。この土地この家で過ごしたほんの僅かのときが楽しかったと、それだけを持っていけばいいのだと思う。妹のことも同じように。でもそれだけではさみしい。寂しくて堪らない。だから早く過去にしてほしいんだ。明確に、過ぎ去った記憶にして欲しい。その為に、私は生きたいと思った。それだけが、私が私を、許せるすべ

 

…私は、家族のために生きて、それが完全になくなる時に、漸く死ねるのだと思った。お母さんが死んで、お父さんが死んで、妹が新しい家庭で幸せに暮らすのを見送って、漸く死ねる。何もかもに忘れられて、やっと…

…それを、先生は、見抜いた。私でさえ、知らなかった。私は本当に、それ以外で、自分を許せなかった。許せない。と思って疑わなかった。分からない。今でも。自分のために生きる、と言いながら、本当は分からないんだ なにひとつ。家族がいなければ消えられるのに、と、酷いことを思う私が、どうしたいか、なんて

 

…暴かないで欲しかった。腕を見ないで欲しいし、傷も、血も、朦朧とする私も、見て欲しくない。でも、もう知られてしまった。迷惑をかけた。家族のためになら、何でもできる、できた、のに、その為になんでも捨ててこれたのに、今更自分の幸せを考えろと言われても、死ぬこと以外思い浮かばない、というのが

助けないでほしい。支えて欲しくない。近寄らないでほしい。こわい。知られるのも、知るのも。笑って大丈夫というのを、どうか信じてほしい。でなければ、こわくて、どうかしてしまう。どうして私がついた言葉を信じてくれないのだろう。それだけじゃ、だめなのか。幸せだと言って、それを信じてくれればお互いに上手くいくのに、なぜ、本当の幸せなんて、今更、必要なのだろう

家族が好きだ、だから早くちゃんとした職を見つけて、適当に生き抜いて、看取って、はやく…はやく死ねたらいい。それが幸せ、かは、わからない…わからないけど、でもそれは私がやるべき仕事で…はやく、はやく、なにもかも、失くなればいいのに。失くすのが怖いと思う前に、壊れてしまえばいいのに。そうしたらちゃんとゴミとして棄てられるのに